A:浮島の採掘師 エンケドラス
グランズキーパーって見たことがあるかしら。あれがスプライトのように、自然発生する魔法生命体なのか、あるいはゴーレム同様の人工物なのかは、判然としていないわ。
ただひとつ、ハッキリしているのは、自ら浮島の岩を削って捕食し、身体を成長させるってこと。特に、ここの騎兵から「エンケドラス」と呼ばれるヤツは、物凄い勢いで、成長を続けているらしくてね……。
浮島の安全を確保するため、リスキーモブに指定されたわ。
~クラン・セントリオの手配書より
https://gyazo.com/8cf274eb1ebdf30c5d5b46e7db795720
ショートショートエオルゼア冒険譚
アバラシア雲海の浮島にグランズキーパーと現実を皮肉ったような名前で呼ばれる魔物がいる。
その見た目は岩を不安定に積み上げて人型を作ったかのようで、この古代人により積み上げられた遺跡のような岩の人型が崩れずに動くのかいまだに不思議に感じる。
そのグランズキーパーの何が皮肉かと言うとこの魔物は風属性のエーテルの影響を受けた浮島をキープするどころか、むしろそれを喰らって成長するからだ。錯乱して自ら守るべきパーティーの仲間を攻撃するタンクみたいな存在をキーパーと名付けるネーミングセンスには脱帽する。
また食べることで育つのだから生物なのかと思いきや、このグランズキーパーは人の手により生み出されたゴーレムのような存在なのか、自然発生する魔法生命体なのかについて学術的結論は出ていない。つまりエオルゼア的には訳の分からない存在という事だ。
だが、ここだけの話、実はあたしはもう一歩踏み込んだ情報を知っている。
昔、あたしがアバラシア雲海を訪れた時にブンド族の侵略により壊滅したグンド族のお嬢様からグンドの族長家に伝わる伝承を聞いたことがある
遥か昔、年代から言えば恐らく古代アラグ帝国時代だと思われるが、当時はまだ浮島のないアバラシア地方で風属性のエーテルを発生させる特殊な鉱石が発見された。その発見に山に囲まれた辺境の地方は大いに盛り上がり、その鉱石の採掘が盛んに行われ一大産業となった。そんな中、一人の研究者があることに気付いた。その発生のメカニズムや原理を解析できればエーテルを無尽蔵に生み出すことができる。科学者は研究の為、一気に大量の鉱石を得ようと大勢の魔道士と採掘師を集め、魔法と爆薬を使って採集を行った。
結果は大失敗。大きく割れた地盤は大量の風属性エーテルの力で上空高くに浮かび上がり浮島となった。そして地上はと言えば、地下水とともに湧き出た水属性エーテルが風属性エーテルとの干渉し、その影響で年中無休24時間営業で密度の濃い雲を作り出す事になった。四方を高い山に囲まれたアバラシアにその雲が滞留し、地上は人が暮らすのも不自由なほど濃い雲に覆われる事となった。それでも風属性エーテルの研究を諦めきれない研究者は錬金術で鉱石採集用の魔法生物を生み出し、浮島に送り込んだのだいう。
ただ、魔法生物を生み出した研究者に2つの誤算があった。
一つは魔法生物を浮島に送り込んだ帰りの飛空艇が何らかのトラブルを起こし墜落、研究者はそのまま帰らぬ人となった事。
もう一つは、魔法生物の精製にあたりベースにした生物(詳しくは分かっていないが一説には有罪判決を受けた犯罪者だとも言われている)の繁殖力と生命力が強すぎたため持っている性質が生物に傾きすぎてしまい、採集作業用ゴーレムというよりも岩を喰らい成長する生物となってしまった事だった。
この話がどこまで信憑性があるのか、どれほど脚色がされているのかはあたしには分からないが、実際に浮島に住まうグンドの族長家に伝わる話なので事実に近いのだと思っている。この話をされた時、グンドのお嬢様にもう一つ秘密を打ち明けられた。お嬢様に指定された場所に出向いたあたしはそこで生まれたばかりのグランズキーパーの幼体を目にした。
大きさは50cmくらい。岩というより大きめの川石を積み上げたような、なんとも可愛らしい姿でよちよちと覚束ない足取りで歩き回っていた。その愛らしさが気に入ってしばらくの間一緒に過ごした。その幼体の頭部となる石の表面に馬が後ろ足で立ち上がったような形の変わった模様があった。
そう、今目の前にいるAクラス指定のグランズキーパー、エンケドラスの頭部にあるような…。
グランズキーパーはその個体の食欲によってその成長度合いが変わってくるものだが、こんな短期間でここまで大きくなるものなのだろうか。あたしは複雑な気持ちを整理できずに黙ってエンケドラスを見ていた。
通常、積極的に人を狙ったり、危害を加えたりしない限りリスキーモブに指定されることは無い。その意味でこの子のAランク指定は特殊だった。指定理由はこの子の食欲。すでにいくつかの浮島がこの子のために消滅したという。あたしは僅かに感じた憐憫の情を断ち切るかのように強く息を吐いた。